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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

しかし、シブキはあるが視界はわりにハッキリしている。水中の朝之助は脳天に熊の一撃をくらった。彼は水中に転落して没した。起き上るところをまた脳天に一撃をくらった。ぜひなく水中をくぐってやや離れ、さて顔をあげてみると、その熊は歌子であった。

彼の脳天をうった太い木の枝をぶらさげて、歌子はしばし朝之助を見つめ何か云いたげであったが、滝の音が言葉をさえぎって用をなさないことを見てとったのか、枝をすて岩をよじて立ち去りはじめた。

意外なところを見られたために朝之助は羞じた。そして歌子の後姿をふり仰ぎ、

「ああまさに熊だ。五百貫、千貫の熊だ」

と思った。そのとき歌子が岩の途中で立ちどまった。木の枝に手をかけ、滝壺の方にふりむいた。両足をひらいて、岩にまたがったのである。何事かと朝之助はカタズをのんだのである。すると歌子の股間からニジのように小便が走りでた。小便を終えると、また岩をよじて立ち去ったのである。

岩をも砕く頭突きの鍛錬のために脳天の二撃は致命に至らず脱するを得たが、かの小便はトドメの一刀であったと朝之助は観じた。むろん歌子が成心あってしたことではないが、無心であるために、なお痛い。