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じょしきりがみねとざんき

女子霧ヶ峰登山記

島木 赤彦

「山岳 第一年第一號」日本山岳會、1906(明治39)年4月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,198 字 · 11 页

青空文庫

谷を上れば、右が霧ヶ峰主峰たる車沢山(?)で、その裾が北方に広がって所謂御射山原(古歌に詠ずるものは富士見村の御射山原に非ずして、之なりとか伝う)で、道の左側の草深い中に、石の祠が埋れて居る。その直ぐ側には山梨の古樹が一本立って居るが、草寒き山上の風に吹きたわめられて、下枝は同じく草の中に埋れて居る。諏訪大神遊猟の跡というので毎年九月神事があるそうだ。人遠き山上の草を踏んでどんな神事があるのだろうと尊くゆかしく想われる。猶少し行けば、鎌ヶ地である。真円な池の大半がミズ蘚に埋れて水の形が新月形に残って居るから、鎌ヶ池と名づけたと云う人もあるが、昔鴨が沢山棲んで居たから鴨ヶ池と云ったのが訛転したのだとも云う。どちらへでも面白いから賛成する。池中のミズ蘚を踏んで中に入れば、跡が綿の如く中へ凹んで、少しじめじめと水が出て来る。ここで立ち乍ら第二の握飯を開いたが、中腹からの雨で、手がかがんで風呂敷が開けない。雨は未だ中々止まないが、序にすぐ並びの七島八島の池をも見ようと、猶北方へ歩を移した。鎌ヶ池よりも広くて水が深い。岸には沢桔梗が一帯に咲き続いて、その紫が澄み切った水に映ったさまはやや凄寥の気味に打たれる。