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おんなごころのつよければ
女心の強ければ
豊島 与志雄
「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页
脱ぎ捨てられてはいたが、然し、やはりそこに在った。柿沼に対する反感憎悪を、長谷川は千代乃から引き継いだ。千代乃の清い肉体をかき抱きながら、それを防衛するような気持ちで、彼は柿沼を憎悪した。
憎悪は、柿沼の面影をそこに喚び起した。暗鬱な影をまとった仮面、それは、人間らしい感情、すべて人間らしいものに対する、蔑視だった。極度の蔑視こそ、自らに深い影を帯びる。その影に、千代乃は慴えたのではなかったか。もう大丈夫、心配なことはない、そういう気持ちで、長谷川は千代乃の清い肉体を抱き庇った。
十
自活の途を見出す、というよりも、開拓するのに、千代乃は苦心していた。長谷川や伯母にはいつも相談し、知人にも相談した。いざとなると、さすがに、何でもやるというわけにはゆかず、何処にでも飛びこむというわけにはゆかず、いろいろと思いがけない故障も起った。
柿沼のことは、もう忘れたかのように口に出さなかった。
長谷川も、柿沼のことは口に出さなかった。然し、新たな懸念が生じてきた。
千代乃とあの一夜を過して以来、柿沼に対する憎悪の念が、根深く彼の胸に植えつけられていた。