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おんなごころしゅうい

女心拾遺

矢田 津世子

「文学界」1936(昭和11)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,514 字 · 36 页

青空文庫

「旦那の身を案じて御意見を申しあげようと云うて下さるお前さんの心はようく分りますが、これは少し早まったことかと思います。旦那の放蕩はお仕事を励ますためのもので、決して、ただのあそびとは考えられません。いわば、あの放蕩がお店を繁昌させているわけですから、そのお為をようく考えてあげて下さい。たのみます」

逸る番頭へ母は手をついて詫びいるような容子であった。人前では父の非行をあくまでも庇いたてるというのが母の常である。その非行を自分の罪にして引け目な思いで暮している。伊予子の見てきた母は、一生をこうして暗く鬱っした思いで終ったのだった。

その母を、今、年老いた伊予子は自分の裡に見るのである。母を不憫に愛おしむ気もちが、しぜん自分へも注がれる。けれど、この気もちの中には何やら歯痒いような憤ろしいような感情が含まれている。そして、これを払い落そうとする心が、知らず知らずに自分の裡から母を追い立てているのだった。

同じあそびをするというても、父の場合は妾宅を泊り歩くのが慣しであったが、唐沢氏は妾宅をつくるということをせず、気にいりの芸者へ凝るという風である。