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おんなごころしゅうい

女心拾遺

矢田 津世子

「文学界」1936(昭和11)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,514 字 · 36 页

青空文庫

その眼が徐かに離れの方を見やった。唐沢氏が半身を現して、

「丁度よいとこへ帰った。おつねさんに茶を所望しとるところでね」

遽しい声音だった。夫人が黙っていると、追いすがるような手ぶりをして、

「どうだ、お前たちも一服馳走にならんかね」

笑顔で誘いかけた。

「素人はあとがうるさいことになるから真っ平だ」

と云い慣れていた唐沢氏が、その建前を崩して素人へ関りをつけている。金で自由になるという玄人の世界を縁遠いものに考えて、これまで妬情を諦めていた夫人は、おつねさんを前にして不意に胸の疼くような嫉妬を感じた。

「女中たちは?」

不思議に声だけは、いつもの穏やかさで尋ねられた。

「はい、旦那様のおいいつけで、活動をみせに出しました」

おつねさんは伏眼になったまま応えた。

「お仕度をして、あなたも見物においでなさい」

云いのこして夫人は青白んだ顔をひきしめ、利かない片足を曳いて徐かに離れへ行った。――

忘れていたその時の妬情が、今、老夫人の裡に頭をもたげてくるのである。おつねさんへ抱いたと同じ感情が、おしもへ向っていく。ただ、あの時に較べて今の方が爆ぜるような気力でおしもを視ているのが、自分ながら不思議なことであった。