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じょなん

女難

国木田 独歩

「文藝界」1903(明治36)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,695 字 · 45 页

青空文庫

声を立てると山に響いて山が唸ります、黙って釣っていると森としています。

ある日ふたりは余念なく釣っていますと、いつの間にか空が変って、さっと雨が降って来ました。ところがその日はことによく釣れるので二人とも帰ろうと言わないのです。太い雨が竿に中る、水面は水煙を立てて雨が跳ねる、見あげると雨の足が山の絶頂から白い糸のように長く条白を立てて落ちるのです。衣服はびしょぬれになる、これは大変だと思う矢先に、グイグイと強く糸を引く、上げると尺にも近い山※(「魚+條」、第4水準2-93-74)の紫と紅の条のあるのが釣れるのでございます、暴れるやつをグイと握って籠に押し込む時は、水に住む魚までがこの雨に濡れて他の時よりも一倍鮮やかで新しいように思われました。

『もう帰えろうか』と一人が言って此方をちょっと向きますが、すぐまた水面を見ます。

『帰ろうか』と一人が答えますが、これは見向きもしません、実際何を自分で言ったのかまるで夢中なのでございます。

そのうちに雷がすぐ頭の上で鳴りだして、それが山に響いて山が破裂するかと思うような凄い音がして来たので、二人は物をも言わず糸を巻いて、籠を提げるが早いかドンドン逃げだしました。