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こうい
好意
豊島 与志雄
「改造」1924(大正13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,059 字 · 40 页
が、こんな風に説明したり註釈したのではきりがない。じかに事件だけを物語ることとしよう。裏面にいろんな事情や感情が絡んでいたかも知れないし、話の正鵠を失することがあるかも知れないが、私としてはただ、眼に触れ耳に触れたことだけを、そのまま物語るの外はない。考えてみれば、変な話ではあるが……。
一
河野が八百円はいっている洋封筒を懐にして訪れた時、吉岡はわりに元気な平静な気分でいた。今日は朝から血痰が一度も出ないし、熱もないようだから、よかったらゆっくり話していってくれ給え、などと云って、人なつっこい笑顔で河野を迎えた。河野は意外な気がした。その離れの十畳の病室へ通される前に、彼は敏子さんから注意されたのだった。
「余りよくないようでございますの。側からは元気らしく見えますけれど、実は面白くない容態にさしかかっているので、人に会うことも出来るだけ避けたがよいと、そう申渡されていますのよ。でもあなたには始終会いたがっていましたし、少しくらい宜しいかと思いますわ。」
で河野は、ただ用件だけを済すつもりで、十五分ばかりと約束して、病室へ通ってみると、吉岡は思ったより晴々した顔付をしていた。