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こうい

好意

豊島 与志雄

「改造」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,059 字 · 40 页

青空文庫

沈黙が続いた。

「では、大事にし給いな、また来るから。」

そう云って私は、お辞儀をするような風に身を屈めて、室から出て行った。

玄関で私は敏子さんに引留められて、茶菓子の馳走になった。女中達が眠そうな眼をしていた。

「あのことについて何とか仰言いましたの。」

「いいえ、何とも。」

暫くすると私の方から云った。

「医者はそうひどいようには云っていなかったんですね。」

「ええ。……でも、悪いんでしょうか。」

「そうでもなさそうですが………。」

低い声でそんな話をしてから、敏子さんは長い間病室の方へ行ったりした。

いつのまにか夜が更けて、もう電車も無さそうだった。私は勧められるままに泊り込んだ。もし吉岡に万一のことがあったら……という思いがいくら追い払ってもちょいちょい顔を出した。春の終りに喀血をして、夏中病床に親しんで、秋風の立つ頃風邪の心地から、急に容態が悪くなった、その全体が一目に見渡された。遅くまで眠れなかった。

後で聞いたのだが、その晩も敏子さんは長く吉岡の側についていた。吉岡はすやすや眠ってる風なのに、突然眼を見開いては、二人共寝てくれと云った。そんなことが何度もあった。