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こうい

好意

豊島 与志雄

「改造」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,059 字 · 40 页

青空文庫

がそれは、月の光、虫の聞、肺病患者、看護婦……そう云ったものから連想される話とはずっと異った、至極健全な常識的な而も謎のような、全くお伽噺とも云えるようなものだったに違いない。

吉岡は私の視線を辿って、障子の腰硝子から庭の朝日の光を仰いだ。暫く黙ってた後に、低い声で云った。

「だが………月の光や虫の声よりも、朝日の光の方がいいね。」

それでも私の耳には、植込の影にちろちろ泣き後れてる虫の声がび聞えていた。振向いて見ると、彼は眼を見据えたまま珍らしく微笑んだ。その、爽かな明るみの中に浮出してる窶れきった蒼ざめた頬に上った、弱々しい恥しそうな微笑の方が、お伽噺なんかのことよりも深く私の頭に刻み込まれた。

そしてもう私達は、河野のことや八百円の金のことなんかは、一言も口にしなかった。そんなことはどこかへ飛び去っていた。――表面から見れば、得をしたのは看護婦である。