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ようふ
妖婦
織田 作之助
「風雪 三月号」1947(昭和22)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,892 字 · 14 页
へーん飲めもしない癖に……、卑怯者!」
安子はそう言い捨てて女湯へ戻って来た。早熟の安子はもうその頃には胸のふくらみなど何か物を言い掛けるぐらいになっていた。
やがて尋常科を卒え、高等科にはいると、そのふくらみは一層目立ち、安子の器量のよさは学校でよりも近所の若い男たちの中で問題になった。家の隣りは駄菓子屋だが、夏になると縁台を出して氷水や蜜豆を売ったので、町内の若い男たちの溜り場であった。安子が学校から帰って、長い袂の年頃の娘のような着物に着替え、襟首まで白粉をつけて踊りの稽古に通う時には、もう隣りの氷店には五六人の若い男がとぐろを巻いて、ジロリと視線が腰へ来た。踊りの帰りは視線のほかに冷やかしの言葉が飛んだ。そんな時安子は、
「何さ鼻たれ小僧!」と言い返しざまにひょいと家の中へ飛び込むのだったが、その連中の中に魚屋の鉄ちゃんの顔がまじっていると安子はもう口も利けず、もじもじと赫くなり夏の宵の悩ましさがふと胸をしめつけるのだった。鉄ちゃんは須田町の近くの魚屋の伜で十九歳、浅黒い顔に角刈りが似合い、痩せぎすの体つきもどこかいなせであった。
やがて安子と鉄ちゃんの仲が怪しいという噂が両親の耳にはいった。