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ようえい

妖影

大倉 燁子

「オール読物」文芸春秋、1934(昭和11)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,489 字 · 22 页

青空文庫

四、白い手袋

「さあ、先刻のお話の続きを聞かして下さい」

私はウイスキーのコップをなめるようにしながら云った。

「お一ついかが?」

お嬢さんはチョコレートの箱を差出して云った。私は手近の一つを取って口に入れた。

四、白い手袋

お父さんはウイスキーをぐっと呑み干してから、話のつづきを語り始めた。

「ベルがまた烈しく鳴りました。召使は誰も起きる容子がありません。仕方なく私は蝋燭に火をつけて、それを持ちながら階下に降りてゆきました。そして玄関に立って、

『どなたですか?』と訊こうと思いましたが、何だか気味が悪るいのです。自分の意気地なしが腹立しく耻しくもなって、思い切って静かにハンドルを廻しました。しかし私の心臓は烈しく鳴り、恐しくって扉を前にひけませんでした。

でも遂々思い切って扉をさっと開けますと、ヴェランダの陰に白いものが立ってるのです。私は体がこわばって動けなくなってしまいました。

『ど、ど、どなたですか?――』

『お父さま。私ですよ』

娘の声じゃありませんか、思わずぎょっとして一歩後に退りました。

『私なのよ、お父さま』

私は自分が発狂したのだと思いながら、すうっと入って来た白いものに追われるように、少しずつ後退さりを始めました。