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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

カストリの透明な液が、蘭の模様の白地の盃にそそがれたが、貞子もミネものめなかった。悠吉がいないことを野村のために気の毒に思いながら、ミネはだまってすきやきをたべた。貞子がつぎつぎと鍋の中を補充してゆく。あまりはずまぬので、肉や野菜が鍋の中に煮えくたびれていた。銀杏の葉型の底の開いた燗徳利で、野村は馴れた手つきで独酌していた。うれしそうだった。酒呑みを十把一とからげに嫌がっていた閑子をミネは思い出し、野村がそんな点でも窮屈だったのではないかと思ったりした。こんな思いをするためにきたのではないと、そんな自分を切なく思いながらミネの観察は手をゆるめない。牛肉は大かた竹の皮に残っている。いかにもそれは主婦のいない家庭のさまをむき出しにしていた。これがもしも貞子の家だったら貞子はこれを見た目も美しく盛り合せて食欲をそそり立てるであろうに、男世帯の蕪雑さはただ量的に豊富なばかりである。やもめ暮しのみじめさのようなものが、部屋一ぱいにみなぎっているようだった。これでは助かるまいとミネはひそかに思った。しかしそこへ閑子を結びつける気は不思議とでてこなかった。閑子のかげはもうどんな隅にも見出せはしないし、強いていえば娘たちのゆううつな顔にあと味の悪さが残っていた。