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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
会場で顔を合した時にも、野村は素気ない目つきで、何にも語らなかった。もっと親しくしてよい筈ではないか。一言ぐらい閑子について語ってもよいではないか。語らぬことで悟れというわけでもあるまいに、気に入らないなら入らないように、それとなく洩らしてくれてもよい筈だと思った。結婚以来何にもいわない野村、その野村は、今悠吉と何を話しているのか、百歩を離れたミネにはもう聞えないのだが、後ろから見ていると、それは全く他人の姿であった。電車通りに出ると、二人は足をとめてミネを待っていた。ほかの連中の姿はもう見えなかった。ミネは足を早め、まるでここで始めて野村を見かけでもしたように近づいていって、肩をならべた。そして思いきっていった。
「閑ちゃん、どうですか。」
「ああ。」と野村はうなずいて「今肩をこらして困ってるんですがね。頭が痛いとかで、今日は寝てましたが。」
「あら、そうですか。近くにあんまさんないんですか。」
「いや、あるにはありますがね、女だもんでこたえないというんですがね。子供たちが大分もんだりしていましたが。」
まっすぐに夕焼の空に向って話す野村の顔は、油絵にかいた老人のように赤く、疲れた額の皺が目立った。