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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
とはいえ、世間なみの女房でしかなかったミネにとってはそれは大きな打撃にちがいなかった。ミネはよく泣いた。目をつり上げて相手をはりとばし身をひかすことでその問題をのりこえた。本当に勝ったのか負けたのかミネはしらない。永年夫婦であったというつながりが表面ではミネを勝たしたような状態においただけだ。しかしミネはそこから、新しい出発をしたような気がする。ミネが小説をかき出したのもそのすぐあとだった。そのことで自分の身についた古さの多少を捨てさることができたと考えている。胸倉をとって小づき回せるような狂態も永い夫婦生活の間には生れるということ、極言すればそんなところからも夫婦の情愛などというものが湧いてくるという不思議、それをミネはしらなかったのだ。そういう人間の奇妙な心理を経て、今はもうちょっとやそっとでは動かぬ、怖るべき、めでたい夫婦になってしまっている。そして十年ぶりに流す湯のような涙は妹の閑子に代って流している。その女の涙を閑子が今はまだ知らずにいるというあわれさとはがゆさ、しかしいつかは流さねばならぬだろうことの辛さ、そのときの閑子のとり乱し方も考えられて泣けるのだ。