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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

「じゃあ、さよなら。これから大会へゆくのよ。それじゃ、都合がついたときいらっしゃい。私がきたこと野村さんにそういってね。」

嘘をついているようで、ミネは辛かった。しかし、自分がここへきたことを聞けば、野村は明日にも閑子を寄こすかもしれぬし、或は打明けて話し合うようなことにもなろうかと、ひそかな思いを残してミネは別れた。見送れぬことを残念がって、ミネが道角を曲るまで、閑子は垣根のそとに立っていて、ふり返る度に手をふった。こんなことも今日で終りなのだ。ミネは走るような早さで歩いた。そしてまっすぐに家へ帰るなり、驚いている娘の正子にいいつけた。

「おすしを作ってね、大福を百円も買っといでよ。」

「あら、お肉だといったじゃないの。」

「それ中止よ。伯母ちゃんがくるだろうから。」

「あっ、そうか。」

すしと甘いものが閑子の好物だった。しかし、閑子はその日はこなかった。次の日も待っていたが現れなかった。野村が伊豆へ出かけたのかもしれない。やきもきしても始まらぬと思いながら、ミネは落ちつけなかった。仕事も手につかぬまま、貞子の家へゆき、落ちつきを装って野村の手紙をみせた。