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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

「閑子さんが、あとから伊豆へおっかけてゆくぐらいだと、いいんだけどね。」

そこにだけのぞみをおくように貞子はいって、ふといためいきをした。

「だめでしょう。そんなところがだめだから、だめなのよ。それにもう……」

ひと事のように平気な声でいったのに、貞子の前だという油断からか、ミネは急にかなしさがこみ上げてきて、だまって顔をかくした。しばらくしてから、

「わたし、野村さんの気もちも分っているつもりなんです。気の毒だと思いますわ。でも、閑子もかわいそうだと思うの。働いてさえいれば、いつかは認められると思ってるような馬鹿な女です。そして酬いられるものが、これですもの。しかもそれを敏感にうけとれないでいる……」

ひと前で泣くのを口惜しいと思いながら、やはり泣けた。泣くまいと決心し、閑子の前でも、また悠吉との話しあいの中でも今度は泣かなかったのに、貞子の前ではいつでも泣けた。貞子だけは分ってくれると思ったからだ。

「私、ミネさんは泣いていますって、手紙出したのよ。」

貞子はそういった。だが、ミネがどれほど泣いたとてどうなるものでない。ミネが泣いていると聞いて、野村は手紙をよこしたに相違ない。