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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
私の方だけが何でもかでもはいはいと、いいなりになる法はないでしょ。私さえその気なら、泥棒犬をたたき出すようなわけにはゆかないもの。」
閑子は捨身になったのだ。その悲壮な決意にもえる女をのせて、すいた昼間の電車は身軽に走り出した。後部の運転台のところに立って閑子は子供のようにひろげた手のひらを硝子戸に押しあててうなずいた。さびしい女の顔である。ミネは、つうんとする鼻の奥を、音たててすすり上げながら、大通りをふらふらと歩いた。本屋による気もない。貞子の家へゆく気にもなれない。花屋をのぞいたが、花を買う気持さえ失っている。花屋の向いに古道具屋があった。ほこりのたまったウインドの中に、ナイフが一つ、煙草ケースや小さな壺や花鋏などのがらくたに交って並んでいた。ミネはそれを見せてもらった。道具のいろいろついたものだった。大小のナイフが二つ、錐、鑵切り、耳かきまでがある。日常生活の中でのあの手この手が、一口にナイフと呼ばれるものの中にかくされているのだ。便利といえば便利なのだろうが、すらりと気持に合うものではなかった。なぜこんなものに心をひかれたのかを怪しみながら、今別れた閑子にそれを結びつけているのに我ながらおどろいた。