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おばすて

姨捨

堀 辰雄

「文藝春秋」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,351 字 · 20 页

青空文庫

一

わが心なぐさめかねつさらしなや

をばすて山にてる月をみて

よみ人しらず

一

上総の守だった父に伴なわれて、姉や継母などと一しょに東に下っていた少女が、京に帰って来たのは、まだ十三の秋だった。京には、昔気質の母が、三条の宮の西にある、父の古い屋形に、五年の間、ひとりで留守をしていた。

そこは京の中とは思えない位、深い木立に囲まれた、昼でもなんとなく薄暗いような処だった。夜になると、毎晩、木菟などが無気味に啼いた。が、田舎に育った少女はそれを格別寂しいとも思わなかった。そうして其屋形にまだ住みつきもしないうちから、少女は母にねだっては、さまざまな草子を知辺から借りて貰ったりしていた。京へ上ったら、此世にあるだけの物語を見たいというのは、田舎にいる間からの少女の願だった。が、まだしるべも少い京では、少女の心ゆくまで、めずらしい草子を求めることもなかなかむずかしかった。

国守までした父も、母と同様、とかく昔気質の人だったから、京での暮らしは、思ったほど花やいだものではなかった。が、少女はそういう父母の下で、いささかの不平も云わずに、姉などと一しょにつつましい朝夕を過ごしていた。