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おばすて
姨捨
堀 辰雄
「文藝春秋」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,351 字 · 20 页
二
母なんぞがその死んだ姉の傍に往ってしまっている間、少女はひとりで、形見に残った穉い児たちを左右に寝かしつけていた。知らぬ間に荒れた板葺のひまから月が洩れて、乳児の顔にあたり、それを無気味に青ざめさせていた。少女はふいと前の月夜の事を思い出し、その顔へ自分の袖をかけてやりながら、いま一人の穉児をひしと抱き締めて、其処にいつまでも顔を伏せていた。
二
新しい普請の出来上った三条の屋形では、古い池と共に焼け残った藤が、今年はどういうものか、例年になく見事な花をつけた。それが一層屋形の人けの絶えたのを目立たせているような単調な日々の中で、少女は又昔のとおりに、物語を見ては、夢みがちに暮らしていた。昔風の父母は、勿論、まだこの少女を誰かにめあわせようなぞとは考えもしなかった。が、さすがに少女ももう大ぶおとなびては来ていた。
父が或秋の除目に常陸の守に任ぜられた時には、女はいつか二十になっていた。女はこん度は母と共に京に居残って、父だけが任国に下ることになった。「ことによると、もうお前達にも逢えないかも知れない」――そんな心細そうな事ばかりを云っている年老いた父を一人で旅に出すのは、勿論、女には何よりもつらかった。