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むすめ

娘

岡本 かの子

「婦人公論」1939(昭和14)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,846 字 · 16 页

青空文庫

「ああ」

「それを買うおあし、お母さんにいくら貰ったの」

「二円だい」

女中がきゅうきゅう笑った。

「済まないわね、そんなに沢山蓑ちゃんから頂いちゃ」

室子は、とぼけた声で、云って見せた。

すると蓑吉は、欲望を割引しなければならない切ない苦痛で顔が真赤になり、物事を決断し兼ねるときのこの子の癖のしきりにもどかしそうに両手で脇腹を掻く仕草をしたあと、意気地の無い声を出した。

「姉ちゃんにみんな遣んの嫌だあ」

それから蓑吉は人を賺すときの声を作って

「姉ちゃん、これ、いっち好いの、ひとつあげる」

セルロイドのちっぽけなお酌人形だった。

「あら、驚いた。あと、みんな、あんたのに取っちゃうの」

室子はわざと驚いた風をすると、女中がまたきゅうきゅうと笑う。蓑吉はもう大胆に取り澄して、分取ったおもちゃを並べるのに余念ない風をしている。

室子の父の妾の子である蓑吉は、乳離れするころ、郊外の妾の家から通油町の本宅へ引取られた。蓑吉は、実母である妾のお咲が時折実家へ来て「坊ちゃん」と云って自分に侍いても、実母とはうすうす知っていながら別に何とも無い顔をしている。用をして貰うときには、室子の父母が呼ぶように、実母を「お咲、お咲」