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むすめ

娘

岡本 かの子

「婦人公論」1939(昭和14)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,846 字 · 16 页

青空文庫

明治中期の末から洋髪が一般化されるにつけ、鼈甲類はいよいよ思わしくない。室子の父はこれに代る道を海外貿易に求めた。近頃になっては、昭和五年に世界各国は金禁止に伴って関税障壁を競い出した。鼈長の拓きかけた鼈甲製品の販路もほとんど閉された。支那事変の影響は、一方、日本趣味の復活に結婚式の櫛笄等に鼈甲の需要をまた呼び起したと共に、一方大陸への捌け口はとまった。商売は、痛し痒しの状態であった。

一ばん大敵なのは七八年前から特に盛になった模造品の進出であった。だんだん巧妙な質のものが出て来た。室子の父も、商売には抜からないつもりで、模造品も扱っているが、根に模造品に対する軽蔑があるのが商法のどこかに現れ、時代的新店の努力には敵わない。結局店を小規模にして、自分に執着のある本鼈甲の最高級品だけを扱う道を執ろうと決めている。娘の室子のことについては、今更婿養子をとっても、家業が家業なり、室子の性質なりで、うまくは行くまいとの明だけは両親に在った。蓑吉を仕込んで小規模に家業を継がせ、望み手もあらば室子は嫁に出す考えである。見合いの口が二つ三つあった。

母親がわが事のように意気込んで、見合いの日室子を美容術師へ連れて行き、特別誂えの着物を着せた。