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こんきはずれ

婚期はずれ

織田 作之助

「会館芸術」1940(昭和15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,054 字 · 16 页

青空文庫

けれども、次に半年ほど経ってから二十の久枝に談があったとき、矢張り義枝を差し置いてということが邪魔した。久枝は北浜の銀行へ勤めに出て、太鼓の帯に帯じめをきりりとしめ、赤い着物に赤い下駄で姉たちとはかけはなれた派手な娘だった。なお眼鏡を掛けていた。相手は同じ銀行に働く男で、銀行員といえばもう飛びつきたい話にはちがいなかった。しかし、同じところで働いていたとすれば、浮いた話ではなかったかとの近所の評判も気にされた。もともと久枝を勤めに出すことは、何かと気がひけていた。娘を働かさねばやって行けぬ所帯かと見られることがなんぼうにも辛かったのだ。だから、同じ銀行で働く男と結婚したとあれば、とやかくの噂も避けがたい。それがおたかにはいやだった。といっても、断るには惜しい談だと、いろいろ迷った揚句、義枝の縁組みもせぬうちに久枝をかたづけるわけには行かぬと、これがおたかの肚をきめたのだった。

そういうことがあって、いま義枝は二十九、定枝は二十六、久枝は二十になった。持子は十三になったので、おたかは思い切って女学校へ入れた。これにはひとびとは駭いた。その界隈で娘を女学校にいれているのは金満家の矢崎だけだった。