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ふじんとぶんがく

婦人と文学

宮本 百合子

※「作品について」参照

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,792 字 · 351 页

青空文庫

イギリス文学のなかで常套となってきた自叙伝としての小説は、それは過去のものであるだろう。何故ならば明日の自叙伝は、きのうの自叙伝と全くちがったものである筈だから。一個の「私」はその奥行きと幅とをひろげて、その「私」の生きた時代とその歴史の特徴とを語るものになりつつある。パール・バックの「この誇らかな心」は、現代のアメリカの社会生活のなかにでも、やはりとりあげられるこういうモティーヴのあることを示している。日本の現代文学について云えば、婦人作家は過去の「私小説」の水準でさえ殆どまだ完き自叙伝的小説として書いていない。近代日本の文学の中で、ヨーロッパ文学の到達した点で、自分を知って、その上で書いたという婦人作家は殆どない。すべての婦人作家は、何かの形で自分というものの形成の過程、発見過程を文学にうつして来ているのである。それにもかかわらず、日本の挫かれた社会と文化の事情で、人間性がのびきらないうち、封建性と近代経済の二重の圧力によって、婦人作家は「女心」の擬態から自身を近代的に解放出来ずにいる。

今日の文学が、種々雑多な歪みだの、不如意だのを示しつつ、その姿なりに時代の性格を語り告げていることは意味ふかい真実である。