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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
「御贔屓の民子ちゃんが、大江山に捕まえられていますから、助出しに行くんだわ。渡辺の綱次なのよ。」
「道理こそ、鎖帷子の扮装だ。」
「錣のように、根が出過ぎてはしなくって。姉さん、」
と髢に手を触る。
「いいえ、」
と云って、言の内に、(そんな心配をおしでない。)の意味が籠る。綱次は、(安心)の体に、胸をちょいと軽く撫でて、
「おいしいものが、直ぐにあとから、」
「綱次姉さん、また電話よ。」
と廊下から雛妓の声。
「あい、あい、あちらでも御用とおっしゃる。では、直き行って来ますから、貴下帰っちゃ、厭ですよ、民ちゃんを連れて来て、一所にまたお汁粉をね。」
酒井は黙って頷いた。
「早瀬さん、御緩り。」
と行く春や、主税はそれさえ心細そうに見送って、先生の目から面を背ける。
酒井は、杯を、つっと献し、
「早瀬、近う寄れ、もっと、」
と進ませ、肩を聳かして屹と見て、
「さあ、一ツ遣ろう。どうだ、別離の杯にするか。」
「…………」
「それとも婦を思切るか。芳、酌いでやれ、おい、どうだ、早瀬。これ、酌いでやれ、酌がないかよ。」
銚子を挙げて、猪口を取って、二人は顔を合せたのである。