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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

「ええ!」

「その方と別れたから、それで悲くなって地方へ行ってしまうのじゃないの、ええ、じゃなくって?」

「…………」

「それならねえ、辛抱なさいよ。母様が、その方もお可哀相だから、可い折に、父様にそう云って、一所にして上げるって云ってるんですよ。私がね、(お酌さん。)をして、沢山お酒を飲まして、そうして、その時に頼めば可いのよ、父様が肯いてくれますよ。」

「……罰、罰の当った事をおっしゃる! 私は涙が溢れます、勿体ない。そりゃもう、先生の御意見で夢が覚ましたから、生れ代りましたように、魂を入替えて、これから修行と思いましたに、人は怨みません。自分の越度だけれど、掏摸と、どうしたの、こうしたの、という汚名を被ては、人中へは出られません。

先生は、かれこれ面倒だったら、また玄関へ来ておれ、置いてやろう、とおっしゃって下さいますけれども、先生のお手許に居ては、なお掏摸の名が世間に騒しくなるばかりです。

卑怯なようですけれど、それよりは当分地方へ引込んで、人の噂も七十五日と云うのを、果敢ないながら、頼みにします方が、万全の策だ、と思いますから、私は、一日旅行してさえ、新橋、上野の停車場に着くと拝みたいほど嬉しくなります、そんな懐い東京ですが、しばらく分れねばなりません。