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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
近火のようだね。火事はどこだ、と木遣で騒いで、巾着切万歳! と祝い直す処へ、八百屋と豆腐屋の荷の番をしながら、人だかりの中へ立って見てござった差配様が、お前さん、苦笑いの顔をひょっこり。これこれ、火の用心だけは頼むよ、と云うと、手廻しの可い事は、車屋のかみさんが、あとへもう一度払を掛けて、縁側を拭き直そう、と云う腹で、番手桶に水を汲んで控えていて、どうぞ御安心下さいましッさ。
私は、お仏壇と、それから、蔦ちゃんが庭の百合の花を惜がったから、莟を交ぜて五六本ぶらさげて、お源坊と、車屋の女房とで、縁の雨戸を操るのを見ながら、梅坊主の由良之助、と云う思入で、城を明渡して来ましたがね。
世の中にゃ、とんだ唐変木も在ったもんで、まだがらくたを片附けてる最中でさ、だん袋を穿きあがった、」
と云いかけて、主税の扮装を、じろり。
「へへへ、今夜はお前さんも着ってるけれど。まあ、可いや。で何だ、痘痕の、お前さん、しかも大面の奴が、ぬうと、あの路地を入って来やあがって、空いたか、空いったか、と云やあがる。それが先生、あいたかった、と目に涙でも何でもねえ。家は空いたか、と云うんでさ。