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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
用は、この小児の二年姉が、眼病――むしろ目が見えぬというほどの容態で、随分実家の医院においても、治療に詮議を尽したが、その効なく、一生の不幸になりそうな。断念のために、折から夫理学士は、公用で九州地方へ旅行中。あたかも母親は、兄の英吉の事に就いて、牛込に行っている、かれこれ便宜だから、大学の眼科で診断を受けさせる為に出向いた、今日がその帰途だと云う。
もとよりその女の児に取って、実家の祖父さんは、当時の蘭医(昔取った杵づかですわ、と軽い口をその時交えて、)であるし、病院の院長は、義理の伯父さんだし、注意を等閑にしようわけはないので、はじめにも二月三月、しかるべき東京の専門医にもかかったけれども、どうしても治らないから、三年前にすでに思切って、盲目の娘、(可哀相だわねえ、と客観的の口吻だったが、)今更大学へ行ったって、所詮効のない事は知れ切っているけれど、……要するにそれは口実にしたんですわ、とちょいと堅い語が交った。
夫がまた、随分自分には我儘をさせるのに、東京へ出すのは、なぜか虫が嫌うかして許さないから、是非行きたいと喧嘩も出来ず。ざっと二年越、上野の花も隅田の月も見ないでいると、京都へ染めに遣った羽織の色も、何だか、艶がなくって、我ながらくすんで見えるのが情ない。