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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

「精々勉強したら、名高い、ギョウテの(ファウスト)だとか、シルレルの(ウィルヘルム、テル)………でしたっけかね、それなんぞ、何年ぐらいで読めるようになるんでしょう。」

「直き読めます、」

と読本を受取って、片手で大掴みに引開けながら、

「僕ぐらいにはという、但書が入りますけれど。」

「だって……」

「いいえ、出来ます。」

「あら、ほんとに……」

「もっとも月謝次第ですな。」

「ああだもの、」

と衝と身を退いて、叱るがごとく、

「なぜそうだろう。ちゃんと御馳走は存じておりますよ。」

茶棚の傍の襖を開けて、つんつるてんな着物を着た、二百八十間の橋向う、鞠子辺の産らしい、十六七の婢どんが、

「ふァい、奥様。」と訛って云う。

聞いただけで、怜悧な菅子は、もうその用を悟ったらしい。

「誰か来たの?」

「ひゃあ、」

「あら、厭な。ちょいと、当分は留守とおいいと云ったじゃないの?」

「アニ、はい、で、ござりますけんど、お客様で、ござんしねえで、あれさ、もの、呉服町の手代衆でござりますだ。」

「ああ、谷屋のかい、じゃ構わないよ、こちらへ、」

と云いかけて、主税を見向いて、

「かくまって有る人だから……ほほほほ、そっちへ行きましょうよ。