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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

「やっと寝かしつけたわ。」

と崩るるように、ばったり坐って、

「上の児は、もう原っから乳母が好いんだし、坊も、久しく私と寝ようなんぞと云わなかったんだけれども、貴下にかかりっきりで構いつけないし、留守にばっかりしたもんだから、先刻のあの取ッ着かれようを御覧なさい。」

と手紙を見い見い忙しそうに云う。いかにもここで膳を出したはじめには、小児が二人とも母様にこびりついて、坊やなんざ、武者振つく勢。目の見えない娘は、寂しそうに坐ったきりで、しきりに、夫人の膝から帯をかけて両手で撫でるし、坊やは肩から負われかかって、背ける顔へ頬を押着け、躱す顔の耳許へかじりつくばかりの甘え方。見るまにぱらぱらに鬢が乱れて、面影も痩せたように、口のあたりまで振かかるのを掻い払うその白やかな手が、空を掴んで悶えるようで、(乳母来ておくれ。)と云った声が悲鳴のように聞えた。乳母が、(まあ、何でござります、嬢ちゃまも、坊っちゃまも、お客様の前で、)と主税の方を向いたばかりで、いつも嬢さまかぶれの、眠ったような俯目の、顔を見ようとしないので、元気なく微笑みながら、娘の児の手を曳くと、厭々それは離れたが、坊やが何と云っても肯かなくって、果は泣出して乱暴するので、時の間も座を惜しそうな夫人が、寝かしつけに行ったのである。