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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

お彼岸にお萩餅を拵えたって、自分の女房を敵のように云う人だもの。ねえ、そうだろう。めの字、何か甘いものが好なんだろう。」

「いずれ、何か隠喰さ、盗人上戸なら味方同士だ。」

「へへ、その通り、隠喰いにゃ隠喰いだが、喰ったものがね、」

「何だ、」

「馬でさ。」

「馬だと……」

「旅俳優かい。」

「いんや、馬丁……貞造って……馬丁でね。私が静岡に落ちてた時分の飲友達、旦那が戦争に行った留守に、ちょろりと嘗めたが、病着で、の出るほど食ったんだ。」

主税は思わず乗出して、酒もあったが元気よく、

「ほんとうか、め組、ほんとうかい。」

と事を好んだ聞きようをする。

「嘘よ、貴郎、あの方たちが、そんなことがあって可いもんですか、めの字、滅多なことは云うもんじゃありません、他の事と違うよ、お前、」

「あれ、串戯じゃねえ。これが嘘なら、私の鯛は場違だ。ええ、旦那、河野の本家は静岡で、医者だろうね。そら、御覧じろ、河野ッてえから気がつかなかった。門に大な榎があって、榎邸と云や、お前、興津江尻まで聞えたもんだね。

今見りゃ、ここを出た客てえのは、榎邸の奥様で、その馬丁の情婦だ。

だから私ア、冷かしに行ってやろうと思ったんだ。