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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

」といい棄てに、ばたばたどんと出て行ったは、玄関に迎えるのである。

ふらふらとした目を据えて、まだ未練にも茶碗を放さなかった、め組の惣助、満面の笑に崩れた、とろんこの相格で、

「いよう、天人。」と向うを覗く。

「不可いよ、」

と強く云う、お蔦の声が屹としたので、きょとんとして立つ処を、横合からお源の手が、ちょろりとその執心の茶碗を掻攫って、

「失礼だわ。」

と極めつける。天下大変、吃驚して、黙って天秤の下へ潜ると、ひょいと盤台の真中へ。向うの板塀に肩を寄せたは、遠くから路を開く心得、するするとこれも出て行く。

もう、玄関の、格子が開きそうなものだと思うと、音もしなければ、声もせぬので、お蔦が、

「御覧、」と目配せする。

覗くは失礼と控えたのが、遁腰で水口から目ばかり出したと思うと、反返るように引込んで、

「大変でございます。お台所口へいらっしゃいます。」

「ええ、こちらへ、」

と裾を捌くと、何と思ったか空を望み、破風から出そうにきりりと手繰って、引窓をカタリと閉めた。

「あれ、奥様。」

「お前、そのお盆なんぞ、早くよ。」と釣鐘にでも隠れたそうに、肩から居間へ飜然と飛込む。