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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

余り騒がれたためか、内気な夫人の顔は、瞼に色を染めたのである。

と、早瀬は人間が変ったほど、落着いて座に返って、徐に巻莨を取って、まだ吸いつけないで、ぴたりと片手を膝に支いた、肩が聳えた。

「夫人、貴女はこれから慈善市へいらしって、貧者のためにお働きなさるんですねえ。」

と沈んで云う。

顔を見詰められたので、睫毛を伏せて、

「はい、ですが私はただお手伝いでございます。」

「お願いがございます。」

と匐るがごとく、主税がはたと両手を支いた。

余り意外な事の体に、答うる術なく、黙って流眄に見ていたが、果しなく頭も擡げず、突いた手に畳を掴んだ憂慮しさに、棄ても置かれぬ気になって、

「貴下、まあ、更まって何でございますの。」

とは云ったが、思入った人の体に、気味悪くもなって、遁腰の膝を浮かせる。

「失礼な事を云うようですが、今日の催はじめ、貴女方のなさいます慈善は、博くまんべんなく情をお懸けになりますので、旱に雨を降らせると同様の手段。萎えしぼんだ草樹も、その恵に依って、蘇生るのでありますが、しかしそれは、広大無辺な自然の力でなくっては出来ない事で、人間業じゃ、なかなか焼石へ如露で振懸けるぐらいに過ぎますまい。