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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

どうぞ、その、遍く御施しになろうという如露の水を一雫、一滴で可うございます、私の方へお配分なすってくださるわけには参りませんか。

御存じの風来者でありますけれども、早瀬が一生の恩に被ます。」

と拳を握り緊めて云うのを、半ば驚き、半ば呆れ、且つ恐れて聞いていたようだった。重かった夫人の眉が、ここに至ると微笑に開けて、深切に、しかし躾めるような優しい調子で、

「お金子が御入用なんでございますか。」

と胸へ、しなやかに手を当てたは、次第に依っては、直にも帯の間へ辷って、懐紙の間から華奢な(嚢物)の動作である。道子はしばしば妹の口から風説されて、その暮向を知っていた。

ト早瀬の声に力が入って、

「金子にも何にも、私が、自分の事ではありません。」

「まあ、失礼な事を云って、」

と襟を合わせて面を染め、

「どうしましょう私は。では貴下の事ではございませんので。」

「ええ、勿論、救って頂きたい者は他にあるんです。」

「どうぞ、あの、それは島山のに御相談下さいまし。私もまた出来ますことなら、蔭で――お手伝いいたしましょうけれど、河野(医学士)が、喧しゅうございますから。」