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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
手水と、その景色にぶるぶると冷くなって、直ぐに開けて出ようとする。戸の外へ、何か来て立っていて、それがために重いような気がして、思わず猶予って、暗い中に、昼間被かえた自分の浴衣の白いのを、視めて悚然として咳をしたが、口の裡で音には出ぬ。
「早瀬さん。」
「お蔦か、」
と言った自分の声に、聞えた声よりも驚かされて、耳を傾けるや否や、赫となって我を忘れて、しゃにむに引開けようとした戸が、少しきしんで、ヒヤリと氷のような冷いものを手に掴んで、そのまま引開けると、裏階子が大な穴のように真黒なばかりで、別に何にも無い。
瓦を噛むように棟近く、夜鴉が、かあ、と鳴いた。
鳴きながら、伝うて飛ぶのを、として仰ぎながら、導かれるようにふらふらと出ると、声の止む時、壇階子の横を廊下に出ていた。
と見ると打向い遥か斜めなる、渠が病室の、半開きにして来た扉の前に、ちらりと見えた婦の姿。――出たのか、入ったのか、直ぐに消えた。
ぱたぱたと、我ながら慌しく跫音立てて、一文字に駈けつけたが、室へ入口で、思わず釘附にされたようになった。
バサリと音して、一握の綿が舞うように、むくむくと渦くばかり、枕許の棚をほとんど転って飛ぶのは、大きな、色の白い蛾で。