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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

どこかの室で、新聞を朗読するのが聞えたが、ものの五分間経ったのではなかった。二階もまだ下り切るまいと思うのに、看護婦が、ばたばた忙しく引返して、発奮に突込むように顔を出して、

「お客様ですよ。」

「島山さんの?」

と言う、呼吸も引かず、早瀬は目をって茫然とした。

昨夜の事の不思議より、今目前の光景を、かえって夢かと思うよう、恍惚となったも道理。

看護婦の白衣にかさなって、紫の矢絣の、色の薄いが鮮麗に、朱緞子に銀と観世水のやや幅細な帯を胸高に、緋鹿子の背負上げして、ほんのり桜色に上気しながら、こなたを見入ったのは、お妙である!

「まあ!……」

ときょとんとして早瀬はひたと瞻めた。

「主税さん。」

と、一年越、十年も恋しく百年も可懐い声をかけて、看護婦の傍をすっと抜けて真直に入ったが、

「もう快くって?」

と胸を斜めに、帯にさし込んだ塗骨の扇子も共に、差覗くようにした。

「お嬢さん……」とまだとしている。

「しばらくね。」

と前へ言われて、はじめて吃驚した顔をして、

「先生は?」

「宜しくッて、母さんも。」と、ちゃんと云う。

五十

寝台と椅子との狭い間、目前にその燃ゆるような帯が輝いているので、辷り下りようとする、それもならず。