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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

お前さんにゃ気の毒だ。さぞ御迷惑でございましょう。」

と丁寧に笑って言って、

「迷惑や気の毒を勘酌して巾着切が出来るものか。真人間でない者に、お前、道理を説いたって、義理を言って聞かしたって、巡査ほどにも恐くはねえから、言句なしに往生するさ。軍に負けた、と思えば可かろう。

掏摸の指で突いても、倒れるような石垣や、蟻で崩れる濛を穿って、河野の旗を立てていたって、はじまらねえ話じゃねえか。

お前さん、さぞ口惜かろう。打ちたくば打て、殺したくば殺しねえ、義理を知って死ぬような道理を知った己じゃねえが、嬢さんに上げた生命だから、その生命を棄てるので、お道さんや、お菅さんにも、言訳をするつもりだ。死んでも寂い事はねえ、女房が先へ行って待っていら。

お蔦と二人が、毒蛇になって、可愛いお妙さんを守護する覚悟よ。見ろ、あの竜宮に在る珠は、悪竜が絡い繞って、その器に非ずして濫りに近づく者があると、呪殺すと云うじゃないか。

呪詛われたんだ、呪詛われたんだ。お妙さんに指を差して、お前たちは呪詛われたんだ。」

と膝に手を置き、片面を、怪しきものの走るがごとく颯と暗くなった海に向けて、蝕ある凄き日の光に、水底のその悪竜の影に憧るる面色した時、隼の力の容貌は、かえって哲学者のごときものであった。