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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

床の間にしっとりと露を被いだ矢車の花は、燈の明を余所に、暖か過ぎて障子を透した、富士見町あたりの大空の星の光を宿して、美しく活っている。

見よ、河野が座を、斜に避けた処には、昨日の袖の香を留めた、友染の花も、綾の霞も、畳の上を消えないのである。

真砂町、と聞返すと斉しく、屹とその座に目を注いだが、驚破と謂わば身をもって、影をも守らん意気組であった。

英吉はまた火箸を突支棒のようにして、押立尻をしながら、火鉢の上へ乗掛って、

「あの、酒井ね、君の先生の。あすこに娘があるんだね。」

「あるさ、」と云ったが、余り取っても着けないようで、我ながら冷かに聞えたから、

「知らなかったかな、君は。随分その方へかけちゃ、脱落はあるまいに。」

「洋燈台下暗しで、(と大に洒落れて、)さっぱり気が付かなかった。君ン許へもちょいちょい遊びに来るんだろう。」

「お成りがあるさ。僕には御主人だ。」

「じゃ一度ぐらい逢いそうなものだった。」

何か残惜く、かごとがましく、不平そうに謂ったのが、なぜ見せなかった、と詰るように聞えたので、早瀬は石を突流すごとく、

「縁が無かったんだろうよ。」

「ところがあります、ははは、」