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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

ああ、先生には言われぬ事、奥方には遠慮をすべき事にしても、今しも原の前で、お妙さんを見懸けた時、声を懸けて呼び留めて、もし河野の話が出たら、私は厭、とおっしゃいよ、と一言いえば可かったものを。

大道で話をするのが可訝ければ、その辺の西洋料理へ、と云っても構わず、鳥居の中には藪蕎麦もある。さしむかいに云うではなし、円髷も附添った、その女中とても、長年の、犬鷹朋輩の間柄、何の遠慮も仔細も無かった。

お妙さんがまた、あの目で笑って、お小遣いはあるの? とは冷評しても、どこかへ連れられるのを厭味らしく考えるような間ではないに、ぬかったことをしたよ。

なぞと取留めもなく思い乱れて、凝とその大吉を瞻めていると、次第次第に挿画の殿上人に髯が生えて、たちまち尻尾のように足を投げ出したと思うと、横倒れに、小町の膝へ凭れかかって、でれでれと溶けた顔が、河野英吉に、寸分違わぬ。

「旦那いかがでございます。えへへ、」と、かんてらの灯の蔭から、気味の悪い唐突の笑声は、当露店の亭主で、目を細うして、額で睨んで、

「大分御意に召しましたようで、えへへ。」

「幾干だい。」

とぎょっとした主税は、空で値を聞いて見た。