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こをつれて
子をつれて
葛西 善蔵
「早稲田文学」1918(大正7)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,970 字 · 34 页
今にも泣き出しそうに瞬たいている彼の眼を覗き込んで、Kは最後の宣告でも下すように、斯う云った。
二
…………
眼を醒まして見ると、彼は昨夜のまゝのお膳の前に、肌襦袢一枚で肱枕して寝ていたのであった。身体中そちこち蚊に喰われている。膳の上にも盃の中にも蚊が落ちている。嘔吐を催させるような酒の臭い――彼はまだ酔の残っているふら/\した身体を起して、雨戸を開け放した。次ぎの室で子供等が二人、蚊帳も敷蒲団もなく、ボロ毛布の上へ着たなりで眠っていた。
朝飯を済まして、書留だったらこれを出せと云って子供に認印を預けて置いて、貸家捜しに出かけようとしている処へ、三百が、格子外から声かけた。
「家も定まったでしょうな? 今日は十日ですぜ。……御承知でしょうな?」
「これから捜そうというんですがな、併し晩までに引越したらそれでいゝ訳なんでしょう」
「そりゃ晩までで差支えありませんがね、併し余計なことを申しあげるようですが、引越しはなるべく涼しいうちの方が好かありませんかね?」
「併し兎に角晩までには間違いなく引越しますよ」
「でまた余計なことを云うようですがな、その為めに私の方では如何なる御処分を受けても差支えないという証書も取ってあるのですからな、今度間違うと、直ぐにも処分しますから」