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こをうばう

子を奪う

豊島 与志雄

「中央公論」1921(大正10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,292 字 · 80 页

青空文庫

と彼は兼子へ云った。「こうこうだというだけならいい、然し批評は子供に悪い。」

「だって私、」と兼子は答えた、「批評なんかする気で物を云ったことはありませんわ。」

「それじゃ無意識の批評というのかも知れない。」

兼子はじっと彼の眼を覗き込んだ。

「そんなにあなた不服なら、御自分で世話をなさるといいわ、私は一切手を出しませんから。」

嘘をつけ! と彼は心の中で云った。「一切手を出さないと云うのは、一切を自分一人でやろうという反語だ。」……然し彼は争ってもつまらないと思った。自分にもそういう心があると思った。そして穏かに云った。

「一切手を出さないというのは、子供を愛する所以じゃないよ。」

「そんならあなたは私があの子を愛さないとでも思っていらっしゃるの。」

「愛してはいるだろうが……。」

「私一度だって叱ったことがありまして?」

勿論彼女は一度も依子を叱ったことがなかった。どんなことがあってもただ庇ってばかりいた。

「然し、」と彼は云った、「叱られる方が子供には嬉しいことだってあるだろう。」

「そんなことがあるものですか。私が我慢して叱らないからこそ、あんなになついてるではありませんか。