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あんごしたん

安吾史譚

坂口 安吾

01 天草四郎

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,351 字 · 23 页

青空文庫

武士は戦争の商売人だが、農民の鉄砲戦術に飜弄された。しかもそれが拙劣な戦法によることを悟らないのである。

攻めるたび多くの屍体をさらしてひき退るのみであるのに、敵の策に応じて自らの策を立て直すことを知らない。そして初代の総司令官板倉重政は正月元旦を期して総攻撃を命じ、自ら竹矢来にとりついて戦死したが、結局莫大な屍体を残して退かざるを得なかったのである。

これに代って総司令官に任命されて到着した松平伊豆守は、さすがに智恵伊豆とうたわれ、徳川三百年の最も優秀な頭脳の一ツであっただけのことはあった。彼は落ちついて敵情をさぐり、矢ダマ糧食のつきたのを諸般の事情から見きわめてのち攻略した。敵兵の屍体をさいてその腹に青草をみとめ、すでに食糧も尽きているのを見きわめる等の手がたいやり方であった。忍術使いも忍びこませたが、切支丹の用語や作法を知らないので忽ち見破られて遁走したという。智恵伊豆や甲賀者といえども甚しく敵を知らないウラミはどこまでも附きまとっていた。

ともかく智恵伊豆は敵の得手を封じ策つきたのを見はからって軽く攻略し、味方の損害は甚しく少なかったが、それにも拘らず、攻略に長い日数を要したと云って叱られ、世人には文弱者の戦法はダラシがないと笑い者になったのである。