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あんごこうだん

安吾巷談

坂口 安吾

04 今日われ競輪す

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,047 字 · 22 页

青空文庫

ところが一大混戦となり、小林は包まれて出られず、田川がトップをきっていたが、ゴール前の混戦に、アッというまに横からとびだした黒五郎が優勝してしまった。

「アッ。七番だ!」

しかし、次の瞬間に、

「ワッ。五―二。当った。当った」

と、どよめきが起る。本命の小林は負けたけれども、フォーカスで小林と組になっていた黒五郎が優勝したから、本命の五―二は動かなかったわけ。観衆の大多数は五―二を買っているから、当った、当った、と大よろこびで、本命の小林が負け、名もない黒五郎が勝ったことが、全然問題にならない。

競輪の観衆の大部分がフォーカスを専門に買い、単複はフォーカスの十分の一ぐらいしか売れないのが普通だから、フォーカスの本命がでれば、大多数は満足で、文句のでる余地はない。

人々は全然フォーカスに気をとられて忘れているが、黒五郎の優勝は、単複に於ては、大穴となっているのである。大多数の人々はフォーカスで安い配当を貰って満足しており、巧妙に盲点をつかれていることに気付かないのである。

恐らく、小林がフォーカス番号の三番におり、誰とも組になっていない場合に、田川も小林も敗れて、名もない黒五郎が勝ったなら、大モンチャクとなったであろう。