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あんごこうだん

安吾巷談

坂口 安吾

05 湯の町エレジー

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,128 字 · 23 页

青空文庫

まことに、どうも、真相は卑俗なものだ。

彼が湯河原で寝込みを襲われて捕えられたとき一しょにいた芸者は、弁当や菓子など差入れていたが、ハンストと知って、チリ紙などの日用品を差入れることにした。一念通じて、彼女が先ず一万五千円の玉代をもらいうけ、かくて、彼の所持金は九万八千円になったが、それ以下には減っていないということだから、ほかの差入れは未だにケンが見えないのである。

泥棒とは云っても彼ぐらいの智能犯になると、兇器などというものは所持してもいないし、使ったこともない。温泉旅館というものの宴会、酔っ払い、混雑という性格を見ぬき、万人の盲点をついて、悠々風の如くに去来していたにすぎない。どの芸者とくらべても、彼の方が小さかったというほどの五尺に足らない小男で、女形のようなナデ肩の優男であるというから、兇器をふりまわしても威勢が見えないという宿命によるのかも知れないが、同じ泥棒をやるなら、彼ぐらい頭をはたらかして、一流を編みだしてもらいたいものだ。

私は探偵小説を愛読することによって思い至ったのであるが、人間には、騙されたい、という本能があるようだ。騙される快感があるのである。