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あんごこうだん

安吾巷談

坂口 安吾

05 湯の町エレジー

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,128 字 · 23 页

青空文庫

「風のイタズラですな」

アッサリ推理した。

浴室の窓だから、長年の湯気に敷居が腐って、ゆるんでいたのだ。外側から一本の指で軽く押しても二十度も傾く。突風に吹きつけられて土台が傾いたから、窓が外れ、風の力で猛烈に下へ叩きつけられた。そのとき内側の窓粋が水道の蛇口にぶつかったから、はねかえって、内側の戸が外側に折り重ったという次第であった。

この結論までに、ホンモノの名探偵は五六分しか、かからなかった。推理小説の名探偵はダラシがないものだ。

二人の探偵の相違がどこにあるかというと、ホンモノの探偵は倒れた窓をジッと見ていたが、おもむろに手袋をはめると、先ず第一に(しかり。先ず、第一に!)敷居に手をかけて押してみたのである。ほかに何もしないで、先ず敷居に手をかけて押してみた。驚くべし。敷居は自在にグラグラうごき、その都度二十度も傾いたのである。

私ときては、敷居は動かないものときめて、手で押して調べてみることなどは念頭になかった。そのイワレは、キティ颱風を無事通過した窓が満月の突風ぐらいでヒックリ返る筈がないということだ。私はテンから泥棒ときめこんで、先ず足跡をしらべ、どこにも足跡がないので、ハテ、風かな、と一抹の疑念をいだいたような、まことに空想的な推理を弄んでいたのである。