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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

いまわかったことじゃないが、考えてみると、これじゃとても大仕掛けに事を挙げるなんて思いも寄らない。例えば、ここで僕らが何かやったって、果して僕らの目的、僕らの意思が、大衆に徹底するかどうか――。

禹徳淳 (顔色を変える)おいおい、今になって君は何を言い出すんだ――。

安重根 (冷笑して)また徳淳のお株が始まるぞ。そのつぎは、(大言壮語の口調で)「われにしてもし武力あらば、軍艦に大砲を積んで朝鮮海峡へ乗り出し、伊藤公の乗って来る船を撃ち沈める」――という、いつもの、そら、十八番が出るんだろう。

禹徳淳がむっとして何か言わんとする時、室外の廊下に「嫌ですよう、引っ張っちゃあ! 行きますよ。行ったら文句はないんでしょう。」と叫ぶ肝高い女の声、「来いっ! 貴様も一緒に来るんだ!」などと男の怒声、続いてけたたましい女の泣き声と、多人数の走り廻る音がして、突然ドアが開き、寝巻姿のロシア人の売春婦三人と、客の朝鮮人支那人の男たちが逃げ込んで来る。劉東夏と禹徳淳は呆然と見守っている。安重根は寝台の下から行李を引き出して、茶色のルバシカ、同じ色の背広、円い運動帽子、大きな羊皮外套等、ウラジオで調えた衣類を取り出し、片隅で静かに着がえにかかっている。