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たぬきじる

完本 たぬき汁

佐藤 垢石

佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页

青空文庫

探巣遅日

もうそろそろ、もずが巣を営む季節が近づいてきた。私は毎年寒があけて一日ごとに日が長くなってくると、少年のころ小鳥の巣を捜すのに憂き身をやつしたのを思いだしてひとりでほほえむのである。小鳥のうちで巣をつくりはじめるのは、もずが一番早い。もずは営巣をはじめると殆ど啼かない鳥だ。全然啼かないというわけではないが、もずはほかの小鳥の啼きまねをするのが好きであるから、営巣をはじめてから高い杉の木の葉がこんもりと茂ったなかで、雲雀の唄う声をまねているくらいで、あの彼女が持ち前のキキという帛を裂くようなはげしい声はあげないのだ。この沈黙は、春から秋のなかばごろまで続いて、野の枯草に一霜おりる頃になると、枝から枝へ低く飛んで、人をびっくりさせるような声をたて、姿を現わす。その時分、桑の枝に小蛙が突き刺されたまま干からびているのは、あれはもずがやった仕業だ。と私らは村の人から聞かされていた。もずは秋から冬一杯啼き続けていて、春がたち初午の祭りが過ぎると、急に啼きやむのだが、裏の薮に、もずの声を四、五日も聞かないのに気がつくと、私ら少年はもうもずが巣をつくりはじめたな。