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ほうえいふんか
宝永噴火
岡本 かの子
「文学界」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页
それには必ず体質に弱いところがあって、精神的苦悩の綻びをそこに見出すように余儀なくされるのである。それで、橘屋の娘にしたところで生れ付き、金持ちの跡取り娘の脾弱い体質から、がっちりしたものに縋り度い本能があって、それが偶然の機会に便りを得て恋となって現われたのであろう。慧鶴は前にいう通り容姿骨柄いかにも立派で頼母し気な青年であった。その点では女性が魅着するに何処といって非の打ち処はない。だが、そう言っても慧鶴に異性が眩惑するような若い肉体の香りの牽引があったとも思えない。むしろ旺盛な精神力に慧鶴の肉体の男性的な一部分はスポイルされていたかも知れなかったのだ。一たん求道の志を捨てて享楽に趨ってみたものの現実に全面的に惑溺することが出来なかったのを見ても察せられる。
橘屋の娘の慧鶴に対する恋は、ただ縋りつきたい、いのちを引立てて貰いたい、一途であった。こういう愛の関係は、むしろ兄妹の情というものに似ているのではなかろうか。しかし、娘は、これを世間にあるならわしの恋と思い込み、心に恥じもし、思い返しもしようとした。それが出来ないことが判って見ると今度は積極的に慧鶴を未来の夫と思い定めることによって良心を宥めた。