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ほうえいふんか
宝永噴火
岡本 かの子
「文学界」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页
修業の仕方一つでその人々と同じものか、或いは似ていて自分が衷心求めている神秘を確に自分の中に持ち来せるのである。周囲は駕籠が通り人々は煙草をふかし、茶をのみ乍ら四方山の咄しに耽る普通の現実の世界である。この現実の世の中で、自分一人が、仏陀とか神仙とかいわれるものに近い永遠不滅の性質を帯びたものに変質するのである。こんな張り合いのある以上の仕事がまたとこの世にあろうか。慧鶴は軒から座敷一ぱいに音もなくさし入っている夕暮近くの太陽の光線に腕をさし延べ、手を裏にし表にして光をうけ止めてみた。掌の表も裏もまるで黄金のように黄ろく光って眩しかった。それを我慢して見詰めていると目が渋くなって涙が浸み出して来た。慧鶴は「禅関策進」を懐へ入れて部屋へ帰った。
それから慧鶴の行状はすっかり変った。明けても暮れても座禅に熱中した。眠くなれば事実、膝を錐を刺すようなことをして意識の朦を追い散らした。考えることは悟りということ、不滅の肉身を獲ること、この一途だった。眠りの幕がいつの間にか考えている頭の中を周囲から絞り狭めて行って、考えは暗中ただ一点の吸殻の火のように覚束なくなる。