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ほうえいふんか

宝永噴火

岡本 かの子

「文学界」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页

青空文庫

自分が求めているものを掴んだとき、母を失った代りの何かを与えられそうな気がした。それでたいして気持に動揺はなかった。久し振りにあっさりした詩偈を一首作ってほのかに心の隅に波紋を描く悲しみの情を写し現した。それが済むと何か道草を喰ったあとのような焦立たしさで再び座禅思惟に心身を浸した。全く取りかかりの無い空間に向い、疑いそのものとなってわれを忘れ去るのは無限の谷底へ向けて崖から手を放すような不気味さがあった。しかし、思い切ってそれを始めると、超現実的な大気が、音も無い風となって、皮膚の全部を擦過する。そして孤独にも孤独の痛快味がわれとわが空虚のうちを慰め潤おし、それが弾みとなって思索から思索へと累進するときに、層々の闇の中にときどき神秘なうす明りが待受けていて何か異香らしいものさえ鼻に薫じた。距離感と時間的観念とはいつの間に消滅していて落下か上騰か不明の運動に慧鶴の精神も肉体も支配され、息も詰まるばかりの緊張で宇宙のどこかに放たれ飛んで行った。

夏の初めから夏安居に入って、破れ寺の瑞雲寺でも型ばかりの結制を行っていた。むかし釈尊時代に、夏の雨季は旅行も困難だし歩いても道に匍う虫類を踏むと可哀想だというので室内に閉じ籠り定座思惟に耽った。