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ほうえいふんか
宝永噴火
岡本 かの子
「文学界」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页
それと、近頃、精力に似て、それでもない鬱積の塊のようなものが心身を張ち切らしそうに膨脹して来て、愉快とも苦痛とも言えない気持は、とても尋常の談話などしていられる時期ではないように思われた。
月を越して十一月になった。その間にも大小の地震が繰返された。九日の夜の冴えた空に煌々と照り渡る半月を浴びて慧鶴は相変らず寺の縁で坐禅をしていた。もう真夜中過ぎであった。富士は一きわ白く抽ん出て現実のものとは思われなかった。慧鶴はすこし夢心地になって思索の筋道を奥歯できっと噛み押えながら意識をとろりとさせていると、地響きのようなものが聞えて来た。慧鶴はうっすり半眼を開いてみると黒い塊が列になって富士の方角から寺の前の畑の中を通って沼津の方角へ続いている。それは長い黒幕を地上に敷いたようであった。慧鶴が何だろうと思って意識を稍々恢復さすにつれ、それは河の流れのようにざわざわ浪立って見える。そして慧鶴がはっきり意識を取り戻したときに黒い河の流れは無数の小さい塊が走り動いているのであって、その塊の数が数限りもないためただ一幅の幕の布にも見えたのである。なお慧鶴が気をつけて見ると、走り動いている小塊は悉く動物であって野猿と覚しきもの、山犬と思しきもの、鹿の群と思しきもの、種々雑多である。